バンクーバーで初めて見て感動した競技には、以前に紹介したスノーボード・ハーフパイプの他にもう一つあります。スピードスケート団体パシュートです。
トリノオリンピックから正式種目となった団体パシュートは、3人一組がチームとして競うロングトラックでは唯一の団体種目。しかしショートトラックのようにリレーではないのです。
3選手が一列に並んで、並ぶ順序を入れ替わりながら滑ります。トップに滑る人が空気抵抗を最も受け体力を消耗するため、順番を入れ替えます。そうすることで極端に誰か一人の体力が消耗して競技に響かないようにします。
そうして選手の技術と体力消耗と相手との駆け引きを考慮しながらゲーム運びをするのです。まさしくチームワークです。
それだけでも、これまでのロングトラックにはない面白さがありますが、この種目の魅力はなんといっても、その美しさです。
スピードスケートの美しさが際立つパシュート
滑る時の氷を切る音、スピードスケートのために鍛えられた肉体、3人の一糸乱れないリズム、すべての要素が美しく、会場で初めて見た時に見入ってしまいました。
これはテレビではなかなか分からない美しさで、コースのちょうどコーナー辺りで見ているとその美しさが際立ちます。コースの直線からコーナーに入り、抜けるところ辺りが最も美しいフォームとなります。
スピードスケート選手は、競技の特性から大腿部が非常に発達しています。フィギュアスケート選手ももちろんそうですが、彼らはジャンプをしたりするので、余計な脂肪はもちろん、余計な筋肉すらつけずに、細身の体に美しい衣装を着けて競技に臨みます。美しさも競技の一部なので当然です。
しかしスピードスケートは美しさを競う競技ではありません。なるべく空気抵抗を抑えるためにピッタリと体に張り付くユニフォームを身に着けています。お世辞にも美しいとは言えません。
しかし、衣装でもなく、音楽でもない、この競技のためだけに鍛えられた身体と、独特のフォームと、勝つために練られた走行スタイルが、美しさを演出するのです。
それでいて、「速いものが勝ち」の鉄則に基づいて勝敗が決まります。その競技のためだけに研ぎ澄まされた美しさが速さを引き出すのです。
パシュートをまた生でみたいです。残念ながら、前にも紹介したようにバンクーバーオリンピックの時にスピードスケートに使用された会場リッチモンド・オリンピックオーバルは、標高が低くタイムが出にくい会場のため、今後もスピードスケートの国際大会に使用されることはありません。現在は、コミュニティセンターとして生まれ変わり、市民がスポーツやアクティビティを楽しむ場となっています。
次の冬季オリンピックは中国の北京ですが、2026年はカナダのアルバータ州カルガリーの可能性があります。だったら見に行けるかもしれません。
もし機会があれば、スピードスケート団体パシュート、ぜひ会場で生で観戦してみてください。その美しさに惚れ惚れしますよ。